第11回 田村明孝の辛口コラム~「明日の高齢者住宅」その1 ~建築にあたっての基本的考え方~

有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅をはじめとした高齢者住宅・施設の居住空間の貧弱さや、暮らしをサポートする食事・介護などサービスの質の悪さを改善すべきだと、常々思ってきた。
居室面積の最低基準は、認知症高齢者向けグループホーム7.43㎡、特別養護老人ホーム10.56㎡、有料老人ホーム13㎡、サービス付高齢者向け住宅は25㎡(共用スペースがあれば18㎡)となっている。ほぼこの最低基準が平均的な面積となっていて、居住空間としては狭小でプアーな空間となっている。
7.43㎡は4畳半、13㎡は6畳+押し入れ、18㎡は6畳+洗面+トイレ、25㎡になると6畳+洗面+トイレ+簡易キッチン+バスのスペースとなる。生活に必要な水回りが狭いながら一通り設備されるには25㎡以上の居住空間が必要となる。
国土交通省の定める単身者の居住最低面積は25㎡となっているのはこのためだ。
特養や老健は4人部屋などの相部屋が大半を占め、居住空間とはかけ離れたものになっている。まさに病室そのものと言っていい。病院は治療が終われば退院するが、特養は相部屋で一生を終えることを考えると、なんとも悲しく心寂しくなる。

これからの高齢者住宅・施設は、団塊の世代が終の住いとして移り住む場となる。
高齢者の住いの理想は、こうあるべきというものを示したいと日頃から思ってきたが、この度、ようやく目指すべき指針ともなる「明日の高齢者住宅」を取りまとめることができた。
私が事務局長を務める高齢者住宅関連サプライアーの団体である高齢者住宅支援事業者協議会が、2年の歳月を費やして制作したドキュメントが「明日の高齢者住宅」だ。
読者の皆様には、是非ご笑覧いただき、実現に向けてのご意見やご協力を賜りたいと思い、2回に分けて「明日の高齢者住宅」の内容を紹介する。

建築にあたっての基本的考え方
居住スペース

専用居室から、共用スペースや屋外に至るまで、身体になじむヒューマンなスケールと素材感・手触りを大切にし、「施設」ではない心の休まる「住まい」を作り込む。
居心地の良い空間でくつろげる様々な場をもうけ、通路では立ち話ができるスペースや腰掛ける場を設けて、表情豊かで落ち着きのある街中の路地を演出する。
居室入り口にはアルコーブをもうけて、ルーム表示は個性を表現できるつくりとする。
居室内は使い慣れた家具や食器を持ち込み、心落ち着き広くゆとりのある空間とし、段差のないバルコニーを設け、外気と接し柔らかな日差しで季節感を感じられる配慮がされている。地域で古くから使われてきた素材を活用した外観とし、内装には生物材料として身体にも環境にも負荷をかけない木材を活用する。漆喰や和紙など伝統的な自然素材も活用し、身体に優しい室内空間を作り出す。

省エネ・創エネでエネルギーの自立化
省エネは、高断熱サッシ・外断熱・空気熱交換機を設備し、室内気温21度、湿度60%に保つ。これはインフルエンザやノロ対策となり、感染症予防にも効果がある。
熱源は、一般的な太陽光発電のほかに地熱利用やごみ焼却熱利用、水素発電や藻からの発電など新たな取り組みにチャレンジし、建物内の熱源のすべては、自らが創り出していく。
エネルギーの自己完結型を目指す。

照明と内装
自然光を取り入れ、十分な明るさで柔らかく配光する。季節によって太陽高度を天窓や軒先、庇などを巧みに配置し、演色性に優れた自然光を室内に取り入れる。
間接照明を活用し、特に寝室では天井の光源が直接目に入らない配慮をする。
加齢に伴い、視力は低下し視野は狭まり遠近感が把握しにくくなるため、はっきりした色彩や濃淡を明確にする。
吸放湿性に優れ、過乾燥や過湿を防ぐ効果のある木を基調とした内装で、壁・床材は無垢材を使用し、肌触りや足ざわりが温かく柔らかいものとする。

入浴・洗面・トイレ
居室内のバスタブを排し、マイクロバブルを発生する高機能なシャワーヘッドを搭載し、浴槽入浴と同等の温まることができるシャワー浴とする。大浴室は開設当初利用できるように配置し、将来的には介護浴に対応に変えていく。
高さ調整ができ、車いす対応の洗面は、サーモ機能付き自動水栓で水の止め忘れ防止などの配慮がなされている。
トイレは、認識しやすい色使いと十分なスペースを確保する。ベッドからトイレへの動線を配慮した部屋の配置となっている。
水周りへの移動は天井走行リフトのレールをあらかじめ設置しておく。

庭 自然に接し五感を刺激する癒しの場
療法的園芸は、自然に接し気持ちの良い癒しの場を提供することを目的とし、環境に合った植栽により、野鳥や蝶の来訪で心なごみ、季節の移ろいを感じる刺激を体感できることで、QOLを高め、睡眠の質も良好となる。
庭の散策を楽しめるよう、車いすでの移動ができる配慮がなされていて、テラスエリアには足湯を設け、草花の香しいにおいを嗅ぐこともできる。
コンサバトリーによって、年間を通して移り行く季節を感じ、五感への刺激がさらに高められる。

カスタマイズとメンテナンス
壁の色やパターンを選択でき、高さ調節のできるキッチンや洗面で入居者の身体の変化に対応できる機器を設置し、将来の身体の変化に備え、手摺下地やアンカー、コンセントの高さ十分な電源などを事前に設備する。
傷がついても自然に感じられ、交換しやすい素材を使用し、日本建築に取り入れられている自然の理にかなった建築手法を活用し、耐用性のある建物とし建物価値を高めていく。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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