- 2024/01/19
- 田村明孝の辛口コラム
「明日の高齢者住宅」前回は、ハードの作り込みについての考え方を述べてきた。
今回は、入居者の暮らしを支えるソフト面の運営に対する考え方を2回に分けて述べることにする。
食事 好きな時に好きな場所で好きな人と好きなメニュー
高齢者住宅に入居して、多くの人の最大の楽しみは、朝昼晩3食の食事だろう。
可能であれば自身で調理することもでき、食堂などで提供される食事を召し上がることもできる。「明日の高齢者住宅」の食事は、生きていることを実感でき、喜びや満足感を味わえる場である。
食べたい時間に、食堂や屋外テラスやデイスペースあるいは居室で、気の合う仲間や家族や時によっては一人で、食べたい食事をとることができれば、この上ない幸せを感じられることだろう。あてがいぶちの給食ではなく、食べる本人の意思がそこから醸し出される食事でなくてはならない。
食材は、地産地消を原則とし、新鮮なとれたての野菜や魚肉を調理する。場合によってはその日のメニューは当日決定ということもある。
食事を賄うのは、腕利きの調理師・管理栄養士から地元の障碍者まで雇用の多様性に富んだ新規開設した地元法人が担って行く。
睡眠 良質な眠りで豊かな人生
良質な睡眠には、自然光の差し込む窓や昼夜メリハリの利いた質の高い照明、フィットしたベッドや枕の選定は欠かせない。
部屋の中でどこにベッドを設置するかによって、動線がすっきりまとまる。ゆったり落ち着いたリビングで日中過ごし、夜間ベッドからトイレへの動線を分かりやすくすることで転倒骨折など事故が軽減できる。
良質な睡眠は、夜間の覚醒がなく睡眠時間が安定して確保できて、入居者の健康状態に合わせた朝のすっきりした目覚めへと結びつく。日中の活動も活発化し、認知症や高血圧・関節痛などの予防効果も期待できる。
入居者は、それぞれの生活リズムを持っており、ここに入居したからといって、起床や就寝パターンを変える必要はなく、入居者の生活サイクルに合わせた良質な睡眠を追求する。
リハビリ 日中活動を重視した生活リハ
住み慣れた環境の中で生活リハビリを取り入れて、日頃から身体の健康状態に合わせて適切な運動を継続して行うことが大切だ。けがや病気で後遺症が残った場合でも、安心して生活できるバリアフリー空間となっている。動線上にバリアがないことで、活動量が落ちて身体機能が低下することなく日常生活を送りながらリハビリができ、安心して建物内を移動しながら運動量を確保できるよう配慮している。
健康状態や生活状況を把握し、リハビリ専門職や福祉用具事業者と連携し、入居者に合った身体機能を維持するための運動メニューを提示し、福祉機器・住環境整備をフレキシブルに対応させ、知らず知らずのうちに今までの生活が維持できるよう配慮している。
福祉用具 専門家による自立支援をサポート
手すりは転倒事故の防止、車いす用クッションやエアマットは床ずれや拘縮予防など、福祉用具を適切に使うことで、安心で安全な暮らしを送ることができる。
身体機能が虚弱化した段階から福祉用具の正しい選択と正しい使い方は必須である。理学療法士・作業療法士・シーティングエンジニアなどの専門技術者による、選定やフィッティングなどアドバイスは欠かせない。これによって日常生活活動の範囲が広がり、生活の質を高めることができる。
寝たきり状態からであっても、移動や立位を目指すことで、神経細胞の活性化や自律神経の安定化と覚醒、心肺機能や体液循環の健全化、抗重力筋の活性化によって廃用を改善することができる。
心身機能の低下を補う福祉用具の活用は、機能の低下防止や改善に効果があり、「明日の高齢者住宅」では福祉用具を積極的に活用している。
ハードや設備などとは違って、入居者にとってどのようなサービスが受けられるか、外部からは窺い知れない。しかし、ここが高齢者住宅の肝といってもよいくらい、生活の質を担保する重要性が潜んでいる。
次回は、「明日の高齢者住宅」の最終回となる。
1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。
1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。