- 2022/11/08
- 田村明孝の辛口コラム
「2015年から10年間で、後期高齢者は175万人増。2025年には、東京圏全体で介護施設の不足が深刻化。高齢者が奪い合う事態となる」
2015年6月、増田寛也元総務大臣(現日本郵政社長)を座長とし、高橋泰国際医療福祉大学大学院教授をはじめ大学教授や民間企業や内閣官房をメンバーとした日本創成会議 首都圏問題検討分科会は、1都3県の急激な高齢化に危機を抱き、「東京圏高齢化危機回避戦略」1都3県は連携し、高齢化問題に対応せよと、政策提案を発表した。
なんともセンセーショナルなキャッチで、1都3県の高齢者を震撼させたことを覚えている。 10年後の介護危機を憂いた日本創成会議の提言が発表されてから7年半が経過した。指摘した介護状況の実態はどう変わったかを検証してみた。
当社では年1回、332自治体(都道府県・政令市・中核市・首都圏及び関西圏の市・東京23区)毎の介護保険事業(支援)計画を精査し、要介護3~5の要介護者数を需要数とし、介護保険の介護施設・高齢者居住系・地域密着型サービスを供給数として捉え、需給過不足を把握し将来予測を取りまとめている。最新値である2021年度末の数値から検証する。
都道府県別でみると東京圏の不足数は多いが、不足割合は中位
この10年間で供給数を増やしている住宅型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の入居者の大半が要介護者であることから、これらを供給数に加えると以下のようになる。
2021年、不足数は東京62千人・大阪22千人・京都10千人・千葉9千人・福島9千人・新潟6千人となり、住宅型とサ付きが施設不足の穴埋めをしていることがわかる。しかし、北海道・福岡をはじめとして15道県が供給過剰となっていて、経営難や介護保険財源難など別の問題も発生してきた。
同様の算出で、政令市の不足は大阪市など5市のみで、13市が供給過剰、中核市では、ほぼ半数が供給過剰となっている。
上記から判断するに、東京の不足状況は続いているが、必ずしも深刻な状態ではなく、比較的周辺の自治体の供給過剰分で補うことが可能となっている。 日本創成会議の「介護施設の不足が深刻化」し「高齢者の地方移住」という図式は成り立たない。危機回避戦略提言は、社会に恐怖心をいだかせただけの的外れの提言だったこととなる。
CCRCが愚策の上塗り
さらに日本創成会議は、「東京圏の高齢者に地方移住環境の整備が必要で、日本版CCRC構想の推進」「地方に高齢者の移住」を掲げている。
これを受けて、内閣府地方創生推進室は2015年10月、日本版CCRCの立ち上げに向けた5県32市町村の37事業を選定し、9億6千万円の交付金を決定している。
このストーリーには三菱総研が深くかかわっており、当時CCRC普及のセミナーや講演の講師として活動し、この調査事業のいくつかは三菱総研が受託している。
しかし、これら交付金を受けた事業が立ち上がったという話はいまだ聞いていない。
それもそのはず、上記で述べたように、高齢者の地方移住の切羽詰まった必要性はなく、需要のないCCRC事業は成り立たないということだ。
CCRC事業気運の高まる中、2016年4月、明治大学兼村高文教授の呼びかけで、地方のCCRC事業推進をテーマにパネルディスカッションが開催された。交付金を受けた井口一郎南魚沼市長・横山純一北海学園大学教授・韓国の洪大学教授・財務大臣政務官などのCCRC事業推進派が4~5名登壇し、反対派は筆者のみだった。「東京圏をはじめ高齢者の住み替えの支援」・「健康でアクティブな生活の実現」・「地域社会多世代との共働」・「継続的なケアの確保」・「地方創成推進交付金16年度予算1000億円」など、事業推進派からは威勢の良い発言が続いた。
これに対して筆者の意見は、東京圏高齢化危機回避戦略レポートは必ずしも的確ではない。
施設は現在不足しているが、地域密着型や居宅サービスを促進することで改善効果はある。住宅型やサ付きの供給が増えており、これらを特定施設化することで施設不足の改善が図られ、東京圏内で施設不足対策は可能であり、日本版CCRCは不要である。また地方の高齢者受け入れ余力はなく、東京圏の高齢者は地方移住を望んでいない。
このようなやり取りしたことを覚えている。その後CCRC事業が実現化した話は聞こえてこない。 なんとも税金の無駄遣いというお粗末なおまけまで付いた日本創成会議の「東京圏高齢化危機回避戦略」この騒ぎは一体何だったのか。まるで祭りの渡った後のようだ。今後の教訓にすべき記憶として残しておくべきだ。