第19回 田村明孝の辛口コラム~癌末・難病患者の行く先は有料老人ホーム?

増加の一途を辿る癌患者と死亡者数
昨年(令和5年)の死亡数は157万5936人、前年より約7千人増加した。死因順位別にみると、第1位は悪性新生物(腫瘍)癌で38万人、昭和56年以降死因順位断トツのトップである。第2位は心疾患(高血圧性を除く)で23万人、昭和60年に脳血管疾患を抜いた。
第3位はなんと老衰で19万人、平成13年以降上昇している。第4位は脳血管疾患で10万人となっている。
75歳以上の高齢者の死亡数は全死亡者数の7割を超えている。死亡者の大半が高齢者ということだ。
死亡場所(令和4年)は、病院診療所103万人・特養17万人・老健医療院6万人で施設系では127万人が亡くなっている。施設外では、自宅27万人、その他3万人の計30万人が亡くなっている。
厚労省の発表からは死亡場所は詳細につかめないが、自宅と区分されているものの中には有料老人ホームなどの高齢者住宅が含まれると推測される。
自宅死亡者は平成16年(20年前)12.7万人を底に、以降上昇を続け、令和2年(2020年)から毎年3万人程のピッチで増え続けている。新型コロナや孤独死の影響があるが、くしくも緩和ケアホーム(ホスピス)が急増した時期にもあたる。
今後も死亡者数は増加して、令和12年(2030年)以降は年間160万人台に達し、令和22年(2040年)にはピークの168万人と厚労省は予測している。

ホスピス病棟の30日退院のからくりとその結末
日本で初めてホスピスが誕生したのは昭和56年(1981年)、聖隷三方原病院に造られた専門病棟が最初で、癌末期患者を対象に心身の痛みを和らげる目的で疼痛ケアや治療がメインとなる。その後全国に広がりみせるものの、令和2年(2020年)からの新設数は激減し、令和5年(2023年)には2棟の閉鎖病院が出て、新設数は初の減となった。
日本ホスピス緩和ケア協会の発表では令和5年(2023年)6月現在463施設9536床が開設されている。今後増加する傾向はみられない。以下の状況から、むしろ減少の一途を辿ることになる。
平成23年(2011年)から診療報酬が、①30日以内 ②30日から60日 ③60日以上に区分され、入院日数によって診療報酬が減額された。
さらに平成30年(2018年)から「平均入院日数30日以内で待機日数14日未満」あるいは「在宅退去率15%以上」を「入院料1」とし、高額な診療報酬とし、それ以外は「入院料2」で算定され、低額な診療報酬となり、長期に入院すればするほど安く設定されることとなった。
患者に短期間で退院してもらい、通院に切り替えれば「入院料1」の扱いになり、以前より増益になるため、30日以内の入院しか扱わなくなってしまった。
入院して最期まで過ごしたい患者家族と、収益重視の病院経営者との対立構造が生まれ、緩和ケアの現場は崩壊しかねない状態となっている。癌末期患者が退院を迫られ、行き場を失うのはそのためである。
本来、緩和ケア病棟に多くの癌末期患者を受けいれるための診療報酬改定が裏目となり、利益に走る病院経営を助長させ、癌末期患者の行き場をなくしてしまう結果となっている。
Clinic C4では、「多くの患者が緩和ケア病棟で穏やかに過ごすために、緩和ケアに関する診療報酬の減額の廃止や同一料金に戻すといった改善が求められている」とし、診療報酬の改定が問題の根幹だと指摘している。

まさにこの絶妙なタイミングに合わせ、雨後の筍の如くジワジワ数を増してきたのが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を病棟代わりにした緩和ケアホーム(ホスピスホーム)である。
共同通信社の市川亨編集委員が、これら緩和ケアホームを舞台とした訪問看護の不正を暴く記事をきめ細かな取材に基づき配信している。これらの問題の根源が医療政策の歪みにあることを忘れてはならない。
高齢者住宅の健全な発展に支障をきたしかねない緩和ケアホームの在り方について早急に検証しなければならない。

参考文献;ClinicC4 日本ホスピス緩和ケア協会

難病向け老人ホームで不正か 訪問看護、過剰請求指摘も

関西大手ホームでも不正、過剰か 入居者訪問看護「全て複数人に」

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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