第21回 田村明孝の辛口コラム~ドクターハウス ジャルダン倒産の杜撰な顛末~

株式会社オンジュワール(本社流山市 代表取締役古川貴也)が運営する「ドクターハウス ジャルダン」は住宅型有料老人ホームで横浜市の本郷台(23年7月開設34戸)・足立区の入谷(23年10月開設187戸)・千葉市の寒川(2023年12月開設167戸)・北九州市の若戸(24年2月149戸)の4か所に開設されていたが、職員の給料未払いで職員の一斉退職や赤字経営で資金繰りが回らず社長が雲隠れ、入居者がいるにもかかわらず、24年10月10日、事業主の一方的閉鎖通知によって閉鎖された。
わずか半年の短期間に4か所537戸を開設し、開設して半年から1年でその4か所全てを閉鎖してしまった。異常としか思えない事態は、本来実施すべき開業前の基本計画や実施計画の策定をしないまま開設したことに起因していると思われる。

弊社がコンサルとして関わった場合、有料老人ホーム開設前に、商品設定と事業収支シミュレーションを繰り返し行い、入居者募集が安定して確保できる裏付けのもと、実施計画策定に進む。中核となる運営責任者の採用・運営マニュアル作り・介護職員など採用を経て、一定期間の試運転を行って初めてホームオープンに至る。
ドクターハウスジャルダンは、急ピッチで開設している実態から、事前準備が足りないまま、安い料金なので入居者は集まるものと高をくくって、オープンしたものと思われる。

運営会社である株式会社オンジュワールは、医師である古川貴也が社長である。
「医師としてだけではなく、介護者としても多くの患者様を幸せにしたいという思いが強くなるのと同時に、多くの方々の助けもありまして、介護施設、障がい者向けグループホームの運営をすることにいたりました。」と会社ホームページにメッセージが記されている。
医師が老人ホーム事業経営に入るきっかけは様々だが、筆者の経験から言えば医師は「安易に儲かる事業」との認識が実に多い。崇高な理念などほとんどの医師は持ちあわせていない。このケースもこれに当てはまる。
また、「多くの方々の助けもありまして」の文言が引っかかる。
世間を知らない医師を手玉に取るなど容易いことで、案件を持ち込んだと思われる大和リビングは、ハウスメーカーの立場から建築ができれば目的達成だ。一般的にホーム運営を考えると、規模が異常に大きすぎるのもハウスメーカーならではと言える。杜撰な事業計画を立てたのは、運営会社の役員にもなっていたジェイマットジャパン合同会社の大下甚氏がコンサルで絡んでいたのだろうか?
約10万円と低額な月額費用の設定は生活保護の高齢者を見込んでのことだろうが、住宅型有料の介護報酬は要介護2から3を超えると自費負担が発生する。事業者がこの負担を抱え込めば赤字収支となるのは明白だ。これを黒字にする貧困ビジネスの悪事に知恵が回らなかったことは幸いだったが、赤字運営から入居者を路頭に迷わせてしまったことは、それ以上に許されることではない。
株式会社オンジュワールの法人登記登録履歴を見ると、2022年2月に流山市に住所変更がなされている。多分この時に古川貴也氏がこの法人を買収したのだろう。ここから有料老人ホーム事業に手を染めはじめ、ハウスメーカーの手引きのもと急ピッチにホーム開設が始まる。大体この手の開設準備手続きはハウスメーカーが売りとするもので、このケースもそうだったのだろう。

さらに驚きは、開設以前の23年6月、千葉銀行がオンジュワールに対して「ちばぎんSDGsリーダーズローン」の取り組みを発表した。代表が医師で医療・介護両面の視点に立ち、手厚い介護体制が強みで、県下2か所全国16拠点の展開を掲げていると評価した。
ちばぎんは、外国人労働者の採用割合を高め、生活困窮者の入居割合を高める目標を掲げることで、サステナビリティ経営を後押しするとして、1億円の証書貸付の融資契約を締結している。特定施設でない住宅型有料は介護職員を抱えないのに、外国人労働者の採用推進とはどういう意味があるのか。住宅型有料は重度の要介護度を持つ生活困窮者が入居すると、月額数万円から数十万円の自費負担を徴収できない。ちばぎんがこれを知っていれば融資対象から外していたはずだ。杜撰な評価がここでも行われていた。

世間を知らないボンボン医師を騙し騙され、周辺事業者が引き起こした事件だが、そこに付け入る輩はごまんといることを肝に銘じて反省し、事件の後始末に代表者は人生を費やしていかなければならない。
これを事前に察知すべきだと、行政機関に責任を負わせるのは酷なことだと思う。銀行の融資部門でも判らなかったことで、専門外の行政には無理な相談だ。事件をきっかけに、行政指導強化に向かうのもお門違いのように思える。そもそも要介護者向け介護施設・住居が不足している背景を捉えることが肝となっている。
介護施設・住居不足の事実を行政が正対し、不足数を的確に捉え、供給を増やすことが重要である。そのためには、介護保険事業計画を真摯に策定し、介護付有料の総量規制の撤廃と住宅型有料を介護付有料に一本化する。ここに手を入れなければ、今後このような事件は後を絶たない。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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