第22回 田村明孝の辛口コラム~第9期介護保険事業計画から読み取る介護保険施設サービスの実態~施設サービスの不足改善と住宅型有料・サ付きの特定施設化が急務

介護保険事業計画は、3年ごとに全国すべての市区町村で策定され、2024年は第9期の初年度にあたる。
市区町村は3か年にわたる介護保険サービス(居宅・施設・地域密着型)の見込み量を市民のニーズ調査から算定し、それに基づき介護保険料を定める。
市区町村単位で介護保険事業計画を作るため、介護保険料は市区町村によってまちまちだ。
第9期介護保険料は全国平均では6,225円(月額)、最も高いのは大阪市9,249円・守口市8,970円・門真市8,749円と大阪府の市が高額上位を占める。最も低い東京都小笠原村の3,374円と比べるとおよそ3倍近くの差となっている。

1,介護保険施設サービス 第8期未達成・第9期計画値縮小
弊社では、毎年介護保険事業計画の施設サービスを調査し、全国の自治体が計画通りに遂行しているかチェックしている。
施設サービスには、特養(地域密着型含む)・老健・療養型医療・介護医療院・認知症対応型グループホーム・特定施設(介護専用型・地域密着型・混合型)があり、第8期末には全国で160万人分の施設サービスが供給されている。ちなみに、施設入所が必要となる要介護3以上の重度要介護者は、234万人(2021年3月末)で、単純差し引きで74万人分が不足していることになる。
不足状況でありながら、第8期の全国の施設サービス計画量は10万人分しかなく、しかも、この期は6万6千人分の施設サービスしか供給されていなことが分かった。3万4千人分の施設サービスが供給されなかったことになる。
施設サービスを必要とした要介護者は、施設に入居できず、自宅で訪問介護・看護やデイサービス・ショートステイなどの居宅サービスでしのいだものと推定される。

第9期の施設サービスの計画量は、7万8千人分で前期と比べ2万2千戸の減少となっている。要介護3以上の重度介護者は241万人(2024年3月)と、3年間で7万人増えているにも拘らず、施設サービスは168万人分しか利用できない。依然として73万人分が不足している。
行き場を失った73万人は、住宅型有料35万戸とサービス付き高齢者向け住宅28万3千戸の約63万戸が受け皿となっている図式が見て取れる。しかし住宅型もサ付きも重度要介護者に住まいの場は提供できても、適切な介護サービスが提供されているとは到底思えない。
住宅型とサ付きの特定施設化を急ぐことと、低所得者向け特養の整備増がこの不適切な状況を改善する唯一の策である。

2,自治体別施設サービス過不足状況
都道府県 供給不足ワースト1位大阪府は住宅型サ付きで穴埋め、供給過剰ワースト1位は北海道

要介護3以上の重度要介護者数を介護保険施設サービス量(地域密着型含む)と比較して、足りているか余っているかを過不足数で表すと、全国全ての都道府県が不足している。
大阪府9万8千人分、東京都9万2千人、愛知県4万3千人、神奈川県4万2千人、千葉県・埼玉県・兵庫県・京都府と続き、都市部が不足していることがわかる。
この不足を住宅型・サ付きが穴埋めしていると見ると、不足数トップは東京都に入れ替わり6万8千人分、次いで大阪府2万7千人、千葉県1万5千人、京都府と埼玉県1万2千人と続く。大阪府は住宅型・サ付きの供給が多く、不足の穴埋めとなっていることがわかる。
また、北海道や福岡県など14道県では、供給過の現象もみられる。

政令指定都市 供給不足ワースト1位は大阪市、供給過剰ワースト1位は札幌市
同様に政令市では、不足の上位は大阪市2万6千人、横浜市1万5千人、堺市1万1千人と続き、供給過は仙台市・さいたま市の2市となっている。
住宅型・サ付きを供給に加算すると、不足上位は大阪市9千人と極端に不足量が減る。京都市5千人、横浜市4千人、堺市3千人と不足上位が続く。
一方、供給過は札幌市2万3千人、福岡市7千人、仙台市6千人と続き、はぼ半数の政令市が供給過の状態となっていて、住宅型・サ付きの供給過剰状態の抑制が必要となっている。民間事業者は、事業参入エリアから外す動きも出始めている。

中核市 供給不足ワースト1は東大阪市だが住宅型サ付きが穴埋め、供給過剰ワースト1は旭川市
不足上位は、東大阪市6千人、船橋市・尼崎市5千人、枚方市・大分市・那覇市4千人と続く。佐世保市を除いたすべての政令市が不足状態にある。
住宅型・サ付きを供給に加算すると横須賀市・川越市・船橋市が2千人、甲府市・尼崎市・大津市がこれに続く。
供給過は旭川市4千人がトップ、金沢市・宮崎市・高崎市・函館市2千戸で続く。中核市の半数が供給過となっている。

施設サービスの総量規制を撤廃して供給量を増やすことは、依然として大きな課題である。
また、住宅型・サ付きの供給が介護保険施設サービスに大きな影響を与え、これらの存在無くして施設サービスを語ることができないことから、特定施設への転換を積極的にはかり、介護保険施設サービスとしての質・量の向上を図る必要がある。
要介護者3以上の認定者数に相当する施設サービス量の確保が、今後の介護保険の課題である。
介護保険事業計画の第7期の施設サービスの不足が第9期でさらに不足が増加した自治体、いわば介護保険事業計画が改善されていない自治体は以下の通りだ。
ワースト上位の都道府県では、大阪府・愛知県・埼玉県、千葉県・神奈川県、政令市では大阪市・名古屋市・川崎市・堺市・京都市、中核市では東大阪市・船橋市・岐阜市・枚方市・高槻市、東京23区では江戸川区・足立区・江東区である。
せめて施設サービス不足が増えないような介護保険事業計画の策定が、住民にとって望ましいことは言うまでもない

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

代表プロフィールへ