第23回 田村明孝の辛口コラム~有料老人ホーム入居者紹介料が150万円!~不正医療報酬から捻出~

そもそも紹介事業とはどのような経緯から始まったか、振り返ってみよう。

日本シルバーサービスが、1983年(昭和58年)静岡県修善寺で有料老人ホーム「桜湯園」(現ニチイホーム)を開設し増設を重ね、その後首都圏に進出する。これを機に自社の営業部門を母体とした紹介会社を立ち上げる。目的は自社の運営する「桜湯園」への入居者獲得だが、「桜湯園」の名前は伏せ、表向きは有料老人ホーム紹介事業者として開業した。入居が決まった際には、入居者からは紹介料などは無料とし、他社のホームに入居した場合は紹介料を請求し、紹介を受けた入居者からは一切の費用は徴収しないビジネスモデルが誕生し、これが現在に繋がっている。

この手法で、ベストライフなど有料老人ホーム事業者は、同様の紹介会社を立ち上げ、これが有料老人ホーム業界で一つの流れとなる。その後ホームとはかかわりのない独立系の紹介事業会社が、参入障壁が低く、資本力がなくても手軽に開設できるなどの理由で続々と参入し、雨後の竹の子の如くその数を増していく。

2000年介護保険施行後、有料老人ホームは従来の自立者向けから要介護者向けへと入居対象が大きく転換する。入居者の平均居住年数は、自立者向けの15年から要介護者向けの5年へと変わり、これにより死亡退去などの退去率は6%から20%となって、常時入居者を募集し続けなければならない事業形態へと変わっていった。

紹介して収入を得たい紹介事業者と、常時空室を抱え入居者確保に追われる有料老人ホーム運営事業者の持ちつ持たれつの関係がここに出来上がる。

2000年ころの紹介料は、10万円から20万円が目安であった。2010年以降紹介料相場は30万円程度までに値が引きあがっていく。中小零細の紹介事業者は、紹介件数は増えるが同業者も急増し競争が激化、紹介事業者の経営状況は良好とはいえなかった。紹介した・紹介していないといったトラブルが、紹介事業者とホーム運営事業者間で、また紹介事業者同士でも頻発する。この頃の紹介事業数はおよそ200社程度であった。

入居率低迷にあえぐホーム運営事業も増え、入居者確保が経営の最大の課題であることから、紹介料を増額してまでも入居者集めに突き進み、その挙句「紹介料100万円を支払うので当ホームへ入居者を紹介して」キャンペーンまで現れる。

紹介料をできるだけ高額で得たい紹介事業者と、紹介料の負担を軽くしたいホーム運営事業者とは、持ちつ持たれつと言いながら一方では食うか食われるかの壮絶な関係となって行く。このような背景から今回の150万円紹介料が出てくることとなる。癌末期患者や難病指定患者・精神疾患の退院をスムースに行いたい病院の退院支援室にとって、この患者を受けいれる有料老人ホーム(緩和ケアホーム・ホスピスホーム)は都合の良い受け皿となる。もちろんその間を繋ぐ役割は紹介事業が果たしていく。

緩和ケアホームは、訪問看護ステーションを併設し、難病などの退院患者を入居させて不要な訪問看護を繰り返し、不正医療報酬などで月額平均120万円売り上げの原資となる入居者を確保できることから、紹介事業者に150万円支払うといったステージまでエスカレートしてしまう。このまま不正医療報酬を放置すれば、200万円の紹介料もあったかもしれない。まさにこのケースでは、持ちつ持たれつウィンウィンの関係が招いた醜態であった。

ここで忘れてならないのは、紹介料の対象となっている入居者(患者)が、自身の入居によって多額な金額が動いていることを何も知らされていないことだ。紹介されたホームが自身にとって求めているベストマッチかどうかよりも、紹介料の多寡によってホームが決められているのが実態だ。

不動産仲介業は、宅建業法で賃貸の場合1か月分の家賃相当額が仲介料と規定されていて、貸主借主双方から仲介料を徴収できる。だが、有料老人ホームの紹介料は、貸主であるホーム事業者からのみ支払われ、借主である入居者からは一切の支払い義務は生じない。さらに入居を決めると10万円のキャッシュバックがもらえる特典まで付けている紹介事業者もいる。

仲介業と同様、入居者もホーム事業者と同様に、紹介料を1か月分の家賃相当額を負担することで、受益者負担を負うべきだ。双方の責任を明確にすることからも制度の改定が求められる。高住連が紹介事業者の上位に位置するような、紹介事業者の登録窓口になっていて、紹介事業者の職員研修を実施している。ホーム運営事業者団体がそこに関わるのは、本来フラットな立ち位置にあるべき対等な関係を損ねる由々しき問題だ。入居者の応分な負担を求めず、紹介事業に対して上から目線的な発想が、紹介料のあるべき姿を歪めていることも指摘しておく。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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