第26回 田村明孝の辛口コラム~アンビス社IRから見た「医心館」の経営とは~

東証プライム上場の株式会社アンビスホールディングス(代表取締役CEO柴原慶一)が運営する住宅型有料老人ホーム「医心館」で、不正や過剰な訪問看護を行っていたと、勤務していた複数の看護師が証言していると共同通信が記事を配信した。
サンウェルズに続いて、緩和ケア(ホスピス)ホーム最大手の診療報酬不正請求に、医療介護にかかわる業界の信用は失墜したといえる。

病院から退院勧告を受けた癌末期患者は、自宅に戻れず行き場に困るケースが多い。この時に受け入れてくれる緩和ケア(ホスピス)ホームの存在は重要であり、そこで親身の見取りが提供されれば、入居者本人はもちろんのこと家族にとってもこの上なく有難いものである。実際そのようなケースは多いのだと思われる。
しかし、「医心館」の経営はどのように行われていたか、密室性が高く分かりづらい。というのは、マスコミの取材や筆者のような外部からの見学は基本的に断られるからだ。

そこで、同社が発表する決算報告書などのIRから、どのような運営が行われているか窺ってみることとする。以下に記載されている内容を箇条書きで記す。

入居者の8割以上が癌末期患者。
看取りは、2024年9月期9400名で施設内看取り率は98.9%。
稼働率84.9%
入居者のうち癌末期患者の入居平均日数は30日未満。
今後、医療機関の余剰病床を「医心館」に転換することを検討している。(さらに開設数を増やすため)
2025年9月期には28か所1458名分の増設し、合計132か所6706名が入居できる規模となる予定。
案件の紹介は、建築会社・金融機関・不動産会社などから、月300件くらいあり、月2から3件が開設される。
入居者は、病院医療機関からの紹介で月1000名ほど。紹介会社からの入居は1名ほどしかいない。
直近の2025年9月期決算予想では、定員数は6797人133か所、売上高536億円となる予定。

通常、有料老人ホーム事業を開設するには、介護や食事など運営全般を安定的に増すには、職員の採用や教育、また入居者募集を考え、どんなに急ピッチで急いでも、年に2から3ホームが限界だ。この10倍のピッチとなり、かなり荒い運営が想像される。
「医心館」が、このような、なんとも恐ろしいピッチで開設されていることに驚いた。
さらに驚くのは、毎月1000名もの入居者(退院患者?)を病院や医療機関から受け入れ、800人以上の癌末期患者を新規入居させ、その後約1月で亡くなるということだ。
残りの200人未満は癌末以外の入居者で、1カ月以上の生存率なのだろう。
この入居者は別表7や8に該当する難病指定患者などが多いだろうかと、邪推が働く。

1室あたり売上高=年間売り上げ予想額/定員数/12カ月/稼働率
この計算結果は77万円となる。一般的な住宅型有料老人ホームの売り上げ(居住費・食費・光熱費等・介護報酬)が48万円(厚労省調べ)に対して、はるかに高い売り上げとなる。
この売上の差は診療報酬で、高収益を稼ぎ出す打ち出の小槌は、訪問看護だと納得できる。

驚異的なスピード感で人の死を看取ることに、怖さを感じるのは筆者だけだろうか。
サンウェルズの不正診療報酬額が28億円超から見て、「医心館」の規模はサンウェルズの約2.5倍であり、単純計算すると不正診療報酬額は70億円と算出される。果たして同社が立ち上げた特別調査委員会がまとめる報告書はどのような内容で、不正金額はいくらになるのだろう。同委員会の報告がフジテレビの報告のように、捻じ曲げられないことに期待したい。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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