データから見る入居者の姿
高齢者住宅にはいったいどのような高齢者が入居しているのか、介護付有料老人ホームのデータをもとにみてみましょう。
介護付有料老人ホームに入居する、要介護認定を受けている入居者の平均年齢は、開設1年目では83.7歳、5年経過すると85.2歳に上がり、開設10年目で85.5歳となり、ピークを迎えます。死亡退去による入居者の入れ替え(若返り)がおきるため平均年齢はあまり上昇することはありません。ピーク以降も平均年齢は横ばい状態で推移していきます。
しかし、最近は入居時の年齢によって入居一時金に割安感を出すホームが出てきました。 90歳以上の入居者に、対して、償却期間を2年間に短縮して一時金を引き下げるホームの場合、90歳以上の契約者が増えます。その結果、平均年齢は88歳から90歳間近といったホームが出現しています。
これらのホームでは、当然のことながら入居者の居住年数が短くなるので退去率が高まり空室が増えます。入居者募集は通常よりも多くなりますので、募集コストがかさむといったデメリットも包含しています。
入居者の平均年齢によって居住期間が変化しますので、事業収支への影響度を考慮する必要があります。
ちなみにスウェーデンの「高齢者特別住居」の入居時平均年齢は90歳です。スウェーデンと比較して、要介護者向けの高齢者住居の供給割合が低い日本では、今後は入居時平均年齢の上昇が起きることになるでしょう。経営の観点から注意が必要です。
入居者の要介護度は高くなる傾向に
介護施設や居住系サービスの入所・入居者の平均要介護度は、特養ホーム3.83、老健施設3.29、介護型療養病床4.36、認知症高齢者グループホーム2.65、特定施設2.69です。入居者の要介護度が比較的軽いと思われてきた特定施設でも平均要介護度は2.69と、近年は高い数値を示しています。
これは、2006(平成18)年の総量規制実施や社会保障費の削減によって特養ホーム・老健施設・介護型療養病床・グループホーム・特定施設の開設数が激減したことに起因しています。
これらの介護保険で入居者に包括的にケアを提供する施設・居住系サービスの供給割合が低下していますので、そこへ入所・入居する高齢者の要介護度は高まります。必要度の高い要介護高齢者が優先的に入るからです。
入居者の要介護度が高まれば認知症ケアや緩和ケア、看取りのニーズが高まり、より高度の介護サービスを提供しなければなりませんので、より高い水準の介護技術をもったスペシャリストの雇用が必要となります。
特定施設ではない住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅にも同様の傾向が現れますので、これらの居住系サービスでも介護サービスの充実が求められます。
退去理由の約半数が死亡による退去
介護付有料老人ホームの入居者の初年度の退去率は約3%です。2年目からは24%前後になりますので、平均居住期間は5年間となります。
退去理由の約半数は死亡が原因です。病院での死亡か、ホーム内での死亡かはデータから判断できませんが、ホームでの看取り事例の少なさから、入居者の多くが病院で亡くなっていると思われます。
病院への入院を理由に退去する割合は約3割と高い率を示しています。終の住まいとして入居したホームでありながら、入居契約を解除してまで入院しなければならない理由は何でしょうか。
高齢期となってから入院する理由の多くが慢性疾患によるものです。ホーム内に、看取りを含めた終末期を過ごせるような医療・介護体制が備わっていないことがその背景としてうかがえます。
介護施設や社会福祉施設に移る目的での退去割合は約15%です。これは介護付有料老人ホームが、特養ホーム待機者の受け皿として機能していることがうかがえます。
自宅へ戻るために退去するケースが6%ありますが、入居に失望した結果の退去だとしたら残念なことです。
安定した入居率を維持するためには、入居者の動態を掴むことが欠かせないことがわかります。