当初は自立者向けでも徐々に介護ニーズが増加
2012(平成24)年4月現在、自立者向けとして約20万人分の高齢者施設・住居が供給されています。特定施設入居者生活介護の指定を受けていないもの、専有面積が自立者にとって明らかに狭いもの、介護居室と標榜しているものなどを除いたジャンルごとの供給数は以下の通りです。
有料老人ホーム3.5万人、ケア付分譲マンション1万人、サービス付き高齢者向け住宅1万人、シルバーハウジング2.3万人、軽費老人ホーム1.4万人、ケアハウス5.8万人、生活支援ハウス0.7万人、養護老人ホーム3.9万人。これらが自立者向け高齢者住居・施設として存在しています。
しかし、自立者向けと思われるこれら高齢者ホームの入居者の何割かは、すでに要支援や要介護状態になって介護保険サービスを利用しています。自立した状態で生活している高齢者は10万人なのか15万人なのか、その数は定かではありません。
自立者向け高齢者住宅は、開設時点と入居が始まってから数年経過した以降とを比較すると、入居者の自立度に変化が表れます。 10年経過後、20年経過後では入居者の高齢化にともないサービスニーズは明らかに変化します。アクティビティルームの使用は減り、介護居室やリハビリテーション、デイサービスなどが必要となります。建物の共用スペースは大きく変化しますので、開設当初の館内の雰囲気はなくなり、もはや自立者向けと名乗ることはできなくなります。
開設当時の館内の雰囲気はいきいきと華やいだ場面も数多くあったでしょうが、要介護者が増えることで徐々に雰囲気は変化していきます。
高齢者の転居は負担が大きい
自立者向け高齢者住宅に入居して、要介護状態になったら再度転居し介護施設に入居するのがいい、という人がいます。しかし、いったん入居して、要支援や要介護状態となってしまったり、また、認知症が発症したりしたからといって、転居することは相当の困難をともないます。
慣れ親しんだ環境から新たな場所へ移転するのは、若い人であっても負担で、ましてや高齢者にとっては身体的にも精神的にも、また経済的にも大きな負担となります。いったん入居した高齢者を、状態が変化したから介護施設に移すのではなく、変化した入居者の状態に合わせて高齢者住宅を変えて行くべきです。入居者が主体であり、それを取り巻くサービスや環境を変えていくべきです。
自立者向け高齢者住宅とは、経年変化とともに要介護者向け住宅にその趣を変えていきます。
経年変化に合わせて入居者向けの環境整備を
サービス付き高齢者向け住宅(サ付住宅)の登録が増え、平成23年10月からの約8ヵ月間で5万2000戸に達しました。高齢者専用賃貸住宅からの登録替えが半数含まれているとはいえ、この数値は驚異的です。過去1年間に作られた高齢者ホームは2004(平成16)年のグループホーム2万8000戸が最大です。整備費補助の付いた特養ホームでさえ2005(平成17)年の1万9000床でした。
サ付住宅に要介護者向けや自立者向けといった区分は制度上はありませんが、居室面積基準が25㎡(共用施設があれば18㎡も可)ですので、登録住宅の大半がこの居室面積基準に沿って作られています。 25㎡~18㎡では自立者にとっての居住空間としては狭く、終の住まいとして長期間そこで住み続けることは難しいでしょう。
居住空間としては、むしろ要介護者に適した広さといえますので、サ付住宅はおいおい要介護者向けとして機能していくことでしょう。年間6万戸を超えるサ付住宅のなかには、高齢者の特性を理解しない事業者も多く参入していると推測されます。補助金目あてのたんなる箱モノ製造ではなく、充実した介護サービスを提供するサ付住宅を期待しています。
「高齢者向け」・「老人」などと冠のついた住宅や施設は、高齢者が住み続けられる環境を経年変化に併せて整備し、そこで入居者を看取ることのできる医療や介護サービスを提供すべきです。利用者はそれを望んでいます。