第6回 有料老人ホームの入居一時金をめぐる動き

サブリース方式の増加で月額家賃方式が増える

入居一時金を預かる有料老人ホームでは、月額家賃に想定居住年数を掛け、想定居住年数を超えて長生きする入居者の家賃分を上乗せしたものを入居一時金として算出します。

平均余命を参考に想定居住期間(償却期間)を設定し、入居一時金は家賃として月々償却します。入居者は償却期間を超えて長生きしても入居費用を追加徴収されません。そうすると事業者は、償却期間終了以降は収益を計上できなくなります。この部分を穴埋めするため入居一時金の一定割合(自立者向けは15%前後、要介護者向けは20~30%)を返還しない“初期償却”が定着しています。こうして入居一時金を預かることで終身にわたる生活を保障するシステムが、有料老人ホームでは一般的となっています。

ホームの利用権は、終身にわたって食事などの生活支援サービスと、居住費がセットとなっていて、入居一時金は高額となりますが、要介護状態になっても継続して生活できる安心が保障されています。

入居一時金を支払い、公的年金受給額内で月々の生活費を賄える利用権方式は、利用者に安心を与えるものとして支持されてきました。

2000(平成12)年から介護保険制度が導入され、有料老人ホームの入居対象者は自立者から要介護者へと変わり、提供するサービスの中心も介護サービスヘと変化しています。

介護サービスを受ける目的で入居する要介護者の想定居住期間は、自立者向けと比べると短く、およそ4年が目安となります。想定居住期間を超えて長生きする割合は、自立者よりもずっと少なくなりますが、それでも事業者の多くが、入居者の“長生き担保”として、初期償却を惰性・慣習として取り続けてきました。常識を逸脱した初期償却を行う悪質事業者の参入を招く原因もここにありました。

要介護者向けのホームの平均規模は40戸程度と小さく、事業方式は地主が建てたホームを丸ごと借り上げるサブリース方式が増えています。自ら建てるのと比べ初期投資を減らすことができるので入居一時金を取る必要がなくなります。このため最近は月月額家賃方式が増えています。

どちらを選択するかは利用者に委ねられるべきですが、将来的に入居一時金は少なくなるでしょう。

入居一時金の償却めぐり自治体間でばらつきも

有料老人ホームの入居一時金やその償却をめぐっては、国民生活センターや自治体の消費者生活センターなどに消費者からの苦情や相談が寄せられています。

こうした動きから、今年4月には老人福祉法が改正され、入居一時金は、家賃やサービス対価の前払いとしてのものに限定し、権利金や礼金などとしてのものは認めないこととなりました。入居一時金の算出根拠を明示することも求められています。また90日以内の退去者には生存・死亡に関わらず全額返還することが義務づけられました。初期償却については禁止してはいませんが、これをめぐり、各地方自治体で解釈が異なっています。

東京都は有料老人ホーム設置運営指導指針を改正し、前払金の全部または一部を返還対象としないことは適切でないとして、初期償却を認めない方針を打ち出しました。

神奈川県は初期償却を認めたうえで、月額払い方式との選択制を義務づけています。

埼玉県は初期償却は認めるものの、償却期間内に退去した場合はその分を全額返却するよう求めています。

首都圏で隣接する自治体の指導に、このようなばらつきが出ています。消費者保護の名のもとに行われる行政指導が、その一方で混乱の原因を創出しているのです。

利用者からみて、入居一時金は早死にすると損、長生きすると得といった博打的要素が含まれるので、損をした人にスポットを当てるのが消費者サイドの見解となり、事業者は得をした人(サイレントマジョリティ)の存在に焦点を当てたがる傾向があります。

現在、厚生労働省では、事業者・消費者団体・行政の3者で消費者向け説明のあり方を検討していますが、はたして落としどころは見つけられるのでしょうか。

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