高額でも安心感与える終身利用権方式が普及
有料老人ホームの入居一時金をめぐるトラブルを消費者団体が指摘しています。入居一時金を数百万円払って入居し、1ヵ月も入居しないで退去(死亡が多い)した際に、返還金の少なさに驚いた家族が相談するケースが多いといいます。なかにはー切退さないホームもあります。平成23年10月に施行された高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)の改正で、入居一時金は家賃とサービス対価の前払いとし、権利金や礼金などは認めないことになりました。有料老人ホームもこれに準じます。
東京都では有料老人ホーム設置運営指導指針を改正し、入居一時金の全部または一部を返還対象としないことは適切でないとして、初期償却を認めない方針を打ち出しました。ホーム事業者に大きな衝撃を与えています。
そもそも、有料老人ホームの入居一時金はどのように始まったのでしょうか。1970年代、終身利用権方式と分譲方式で高齢者向け共同住宅の開設が始まります。100戸超規模のマンションに豪華なエントランスや食堂・大浴場などの共用施設を併設したもので、いずれも入居時自立が入居条件です。終身利用権方式は入居一時金、分譲方式は売買代金として対価を受領したのが始まりです。入居一時金や売買価格はいずれも用地費や建設費などの初期投資額の回収を前提として算出されますので、ほぽ同額でした。
入居者は高齢者ですから、経年変化で介護サービスが必要となってきます。終身利用権方式のホームは介護コストを入居一時金に含めて、終身にわたる生活を保障しています。これによって入居一時金は分譲方式の価格よりも高くなりました。入居一時金は平均居住期間を設定して家賃として償却しますが、償却期間を超えて長生きしても追加徴収しませんので、長生きされると事業者は収益を計上できません。そこで‘長生きコスト’として入居一時金の一定割合を返還しない初期償却が導入されます。終身利用権方式は終身にわたる各種サービスと、居住費がセットとなっているため高額になりますが、どんな状態になっても継続して生活できる安心が保障されています。
一方、所有権方式は要介護になったら、基本的には本人の責任で介護サービスを受けることになります。住まいは区分所有権という権利がありますので、住み続けることに問題はないのですが、各種サービスがセットされていませんので、結局住み続けることができずに退去するケースが増えていきます。サービスと住まいがセットになっているか、分離しているかでこうした違いが出てきますので、利用者は安心を求め、終身利用権方式を支持してきました。
入居一時金方式のホームは少なくなる可能性も
平成12年に介護保険制度が始まると、有料老人ホームの入居対象は要介護者に変わります。最初から介護サービスを受ける目的で入居する高齢者が対象です。
平均居住期間は自立と比べると短く、およそ4年が目安です。期間を超えて長生きする割合は自立の方よりずっと少なくなりますが、事業者の多くが初期償却を慣習として続けてきました。初期償却の妥当性が問われる所以です。
その後「終身」という言葉は誤解を招くとして表示できなくなりますが、利用権方式は住まいの場とサービスを一体的に終身にわたリ付与するシステムに変わりはありません。
ホームの規模も平均で40戸程度と小さくなり、事業方式もサブリース(事業者が個人などの所有者から土地や建物などを一括で借り上げ転貸すること)が多くなり、初期投資を滅らすことができるように変化しています。このため、入居一時金を取る必要がなくなり、月額家賃の賃貸方式が増えています。国土交通省の高齢者住宅制度も後押しして、利用権ではない賃貸方式が確立されてきています。
利用者からみた入居一時金は、「早死にすると損、長生きすると得」といった博打的要素が含まれるのに対して、月額家賃の賃貸方式は所有権と同様にサービスと居住が分離していますので、サービスを受けた分だけを負担する応益負担となります。
どちらを選択するかは、利用者に委ねられるべきですが、将来的には入居一時金を徴収するホームは少なくなると推察します。