老人ホームではない「住宅」を提供
愛知県名古屋市千種区、「ナゴヤドーム」’の近くに、癌患者専用ホスピスとして高齢者専用賃貸住宅「ナーシングホームJAPAN」が、平成21年1月にオープンしました。
開設から2年半近くが経過し、現在は満室で待機者もいるほど盛況の高専賃です。開設当初は介護施設や老人ホームと間違えられ、また、「ホスピス」という名称から、ここに入居すると死ぬのではないか、といった噂が流れるなど、看取に対する社会からの理解が得られない状態でのスタートでした。 「末期がんの患者や重篤な患者が、最期まで安心して暮らせるようなサポートの場として理解してもらうのに時間がかかった」と、代表の吉田豊美さんは振り返ります。
今日の医療技術は進歩して、化学療法などによって寿命が伸びています。病院では入院日数の制限や、病床の回転率を上げるために、患者に早めの退院を求め、さらに、名古屋市内の緩和ケア病棟の不足もあって、病院から在宅へ戻るケースが増えていました。
しかし、退院患者が自宅で療養を始めると、家族が介護に追われ疲労困憊し、家族関係もうまくいかなくなるケースも多くあります。このようなケースを数多く見てきた吉田さんは、24時間の訪問看護サービスがついて、病院と同じ安心感があり、家族に気持ちのゆとりをもっていただけるような、「老人ホーム」ではない「住宅」を提供しようと、この事業を始めました。
地域の介護関係事業者も積極的に運営に参画
「ナーシングホームJAPAN」は鉄骨造4階建てで、1階には建物のオーナーでもある在宅医療専門の診療所「医療法人吉田クリニック」と、高専賃事業の運営者でもある訪問看護ステーション「ナースコール在宅センター訪問サービス」が開設されています。2階から4階に高専賃の居室26室があり、各階にはリハビリ室・イベント室・食堂・浴室などの共用スペースが配置されています。居室面積は約18㎡で、トイレ・洗面もあり、医療用ベッドやテレビも設置され、まさに病院の個室のような居室となっています。
終末期医療が必要な方を入居の対象としているので、入居期間は6ヵ月としています。入居時には入居一時金と契約金として60万円を支払い、毎月の費用は家賃と共益費、さらに生活支援サービス料と食費で合計29万5000円です。入居期間の延長もできますが、その場合、契約金として30万円を更新時に支払います。家族サポートでは、レスパイトケアも行っており、1週間で約11万円の費用が必要です。いずれも、入居者にはこのほかに医療費や、介護保険サービスの自己負担分かかかります。
利用日数は3日から1年と幅がありますが、特例的な長期入居者を除けば平均73日間で、まさにがん末期愚者の看取りの場となっています。
併設する診療所と訪問看護ステーションは、入居者以外にも地域の在宅療養を支え、約150人に訪問看護サービスを提供しています。レスパイトケアを利用することで家族にも余裕ができて、入居者のなかには自宅での看取りを希望して退去する方もいます。往診と訪問看護サービスを利用して、自宅での看取りが可能となっています。
「ナーシングホームJAPAN」では、毎月、医師などが講師となって、死のとらえ方や死生観などの自己啓発セミナーを開催し、死を迎える利用者にどのように付き添うかなど、職員の心のケアにも配慮しています。セミナーには入居者やその家族も参加することができ、リビング・ウィルの一助となっているようです。
地域のケアマネジャーや訪問介護事業所、医療機器のレンタルや給食サービスなどの事業者、NPO法人、ボランティア団体に対しても、高専賃の事務所スペースを提供するなど積極的に運営に参加してもらっていますので、館内で活動しているのは、職員よりも外部の方々が多いというのもうなずけます。
入居者を地域全体で支えるという理念が徹底している高専賃です。医療系サービスの高齢者住宅業界への参入は必然性があり、今後ますます拡大していくものと思われます。