状態の改善例多く満足される看取りも提供
79歳女性。在宅で暮らし、お嫁さんが介護していた。要介護度4。胃ろうの状態で、喀痰吸引も必要となるなど、重度であることが理由でショートステイの利用を拒否される。訪問診療と小規模多機能型居宅介護を利用し、最期は自宅で看取られた。
78歳男性。妻が介護していた。胃がん手術後の入院拒否で、多発注肝転移を起こし、その後、訪問診療で緩和ケアを行い、小規模多機能型居宅介護を利用して看取られた。
84歳女注。転倒により骨折し、車いす利用となり、入居していたグループホームから退去勧告を受ける。その後、グループホーム「かいで」に入居し、要介護度5で、アルツハイマー型認知症により意思疎通できない状態から、2ヵ月後には自力歩行できるまでに改善した。
86歳男性。入院していた病院から療養病床への転院を勧められるが、本人・家族とも自宅で過ごしたいと拒否。要介護度5、胃ろうの状態で、喀痰吸引も必要。さらに、排泄困難で寝たきりの状態。小規模多機能型居宅介護を利用し、身体機能が改善、車いすに移乗できるようになり、大の阪神ファンで、甲子園で野球観戦できるまでに改善した。
これらは京都府向日市にある、小規模多機能型居宅介護とグループホームの複合施設「かいで」の実績の一例ですが、これ以外にも本人と家族が満足する看取りや改善例は、きりがないほどです。これはなぜでしょうか。
「かいで」の母体である土井医院の土井正樹院長は、「かかりつけ医として、住み慣れた自宅や地域で最期まで暮らし続けられるように、また、自宅で看取りたいと希望するご家族を24時間サポートする体制をつ<リあげてきました。もちろん医療や看護が必要なときには入院を勧めています」と話します。土井医院では外来診療を週6時間しか行わず、それ以外の時間は、約80人の患者の往診や、病院訪問、ケアカンファレンスにあて、年間およそ40件近くの看取りを行っています。
利用者の孤独感から生じる不安や、先々の絶望感を、家族や職員が一体となって共有し、一緒に乗り越えようとする気持ちの統合が、ときとして驚くべき改善につながり、また家族にも満足される看取りができているのだろうと思います。
住まいと医療・介護の組み合わせが安心につながる
土井医院は平成11年に京都府向日市に開設し、往診に力を入れる在宅療養支援診療所として地域の在宅医療を支えてきました。当初、デイケアを開設しましたが、日中だけのケアでは対応できないことがわかり、デイケアを閉鎖、それに代えて平成19年には診療所のすぐ近くに小規模多機能型居宅介護と認知症グループホ一ム(定員9人)の複合施設「かいで」を開設しました。1階にある小規模多機能型居宅介護には、68歳から97歳まで、利用者20人が登録し、平均年齢85歳、平均要介護度は2.95です。2階のグループホームは9人が利用し、81歳から94歳まで、平均年齢は88歳と、若干高齢です。平均要介護度も4.2と高くなっています。
利用者の平均年齢や要介護度が、他事業所と比べて高いのは、従来であれば病院へ入院していた患者が、地域に戻ってきたことを意味しているのではないかと考えます。在宅医療と、認知症ケアなどの介護の質が地域に信頼されているからこそ、重度利用者の受け皿となり、看取りまで行えるのでしょう。地域の居宅介護支援・訪問看護・訪問介護・入浴サービス・ショートステイ・介護タクシーなどの各事業所と連携し、より地域に深く根ざした体制を整えていますので、自ずと信頼は深まります。
この実績を礎に、今年8月にはグループホーム「てらど」(定員18人)を同市内に開設する予定です。
高齢者の住まいの場とは、たんに高齢者住宅をさすのではなく、住まいというハードと地域の医療や介護などのさまざまな良質な資源が組み合わさって、はじめてそこに安心のある暮らしが生まれるのでしょう。穏やかな暮らしを紡ぐことで介護度も改善に向かい、または、安らかな死を迎えられることにつながるのではないでしょうか。