第7回 高齢者住まい法が高齢者住宅市場に及ぼす影響~その1・制度に関して~

改正高齢者住まい法が10月20日に施行

いよいよ10月20日に高齢者の居住の安定確保に関する法律の一部改正法(改正高齢者住まい法)が施行されます。詳細な内容は省令等で定めることになっていますが、改正法の施行が高齢者住宅市場に及ぼす影響について考察してみます。

介護保険サービスを入居者に対し包括的に提供する特養ホーム・老健施設・介護療養病床・認知症グループホーム・特定施設の年間供給数は、2005(平成17)年の8万戸(床)をピークに、2006(平成18)年には総量規制が始まったことから減少に転じ、また療養病床の転換が進んだこともあり、2010(平成22)年には実質2.5万戸(床)までに低下してしまいました(タムラプランニング&オペレーティング調べ)。

第3期介護保険事業計画(平成18年度~20年度)では、これらの施設・居住系サービスについて全国で19万戸(床)の整備が計画されましたが、14万戸しか整備されず5万戸が未整備でした。第4期計画(平成21年度~23年度)では20万戸の整備量ですが、第4期計画が2年経過した時点では10万戸しか整備できていませんので、おそらく第4期も未整備が数万戸に道します(タムラプランニング&オペレーティング調べ)。

介護保険事業計画は、市町村が生活圏域ごとに必要と認めた必要量にもとづいて都道府県が整備量を定めるものです。必要とされた施設・居住系サービスが整備されないということは、特養ホームなどへの入所が必要なのに入れない要介護者が、第3期では5万人いたということです。行き場所を失った要介護者の悲惨さは、「たまゆら」の火災事故や家庭内介護殺人また介護放棄など悲惨な事件にもつながっています。

このように施設・居住系サービスの整備が遅れた穴埋めを、高齢者専用賃貸住宅と住宅型有料老人ホームが果たしてきたかのごとくとらえられていますが、要介護者にとっては行き場を失った状態に変わりはありません。重度の認知症や重度の要介護状態になると、これらの住まいには住み続けられませんので、実質的な穴埋めにはなっていないのです。

この5年間にわたる施設・居住系サービスの未整備分を早急に追加整備しなければ、「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、「サ高住」)には、行き場を失った要介護者が流れ込み、いわば、“第2”の特養ホームや特定施設、グループホームと化す一方で、「サ高住」では期待した介護サービスが提供されないという不満が入居者からは出るでしょう。

 

自治体の真価が問われる時代に

介護保険事業計画とは別に、高齢者住まい法では、自治体における高齢者居住安定確保計画(高齢者向け賃貸住宅・老人ホームの整備量を定めた計画)を定めることができるとされていますが、多くの自治体はこの計画を策定していません。介護保険事業計画とパラレルで高齢者居住安定確保計画を策定するよう望んでいます。

「サ高住」は、都道府県・政令市・中核市の長が登録を受ける制度になっていますが、高専賃の登録制度と同様、新制度の浸透度が不足し、内容の不勉強や誤解から登録拒否も出るでしょう。

地方分権により自治体に権限が移譲されつつある昨今、自治体の定める規定や指導内容に、その場しのぎのご都合主義の傾向がみられます。今般の特養ホームのユニット型個室の居室面積の狭小化や、自治体によっては多床室の整備を誘導するところもありますが、こうした施策を実施する前にもっと幅広く利用者や事業者サイドの意見に耳を傾けてもいいのではと思えることも増えています。自治体の真価が問われる時代です。施設・居住系サービスに関しては質と量の整備をいかに向上させるか、計画をしっかりと立てることが求められています。

今年度の国土交通省の予算で、「サ高住」に300億円の整備費補助がつきました。地主や建て主に補助金や優遇税制のメリットが与えられ、たしかに供給促進にはなるのでしょうが、利用者の家賃が安くなるとは考えられません。整備費補助のあリ方を見直し、公的融資を受けやすい制度や低所得者向けの家賃補助に切り替えていくべきだと考えます。

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